第二回 歯茎が変な時

笑った時に白い歯が好感をもたれることは前回に書きましたが、笑った時には歯だけでなく歯ぐきも見えることがあります。

歯は黄ばんでいたり、むし歯で黒ずんでいたらイメージダウンですが、歯ぐきはどんな状態が良くないのでしょう?

歯のことは気づかっても、案外歯ぐきのチェックはおざなりになっていませんか?

歯ぐきの病気なんて自分とは縁がないと思っていませんか?

今回は、歯にとって縁の下の力持ち『歯ぐき』についてのお話です。

そもそも歯ぐきって何?

鏡でお口の中を覗くと歯の周りに、根元を取り囲むように見えます。歯肉(しにく)とも呼ばれています(以下歯肉と記載します)。

歯とはまったく別の組織ですが、歯を維持する歯周組織のひとつです。

歯肉って何のためにあるの?

歯科医院をめぐる不名誉な噂とは?

歯は、歯肉から直接生えているのではなく実際は歯槽骨(しそうこつ:顎の骨のうち歯を支える骨)に植わっているのですが、この歯槽骨を覆い保護する役割が歯肉にはあります。

もし、歯肉が無かったら食事のときの咀嚼の力や動きにより歯や歯槽骨を痛めつけてしまうことでしょう。

歯肉には歯や歯槽骨を守る働きのほかに、免疫としてのバリア機構もあります。

新陳代謝によって歯肉の表面には、沢山の細菌が長期間付着しにくく、歯肉の細胞同士の間には、外からの細菌や毒素などと戦い分解する細胞がたくさん遊走しているので歯肉の健康が保たれているのです。

歯肉はなぜ赤い?

実はお口の粘膜はとても薄いのですぐ下にある血管、つまり血液の色が透けて見えているからなのです。

たとえば、私たちは毎日お風呂に入ります。寒い時期ですと、入浴前は血行不良で肌が青白い人も、湯船に浸かり血行がよくなり血流が多くなると肌の色が淡い赤みを帯びてきます。

熱過ぎてやけどをすると肌は炎症を起こし赤くなってしまいます。

同じように歯肉も血液循環によって色が違ってきます。たとえば、貧血気味の人では白っぽい薄いピンク色をしており、歯肉炎や歯周病の人では赤みが増します。

また、タバコを吸う人では血中酸素が減り、ヘモグロビンが二酸化炭素と結合することでうっ血しているので青味がかった紫色のような歯肉の色をしています。

正常な歯肉の状態は?

歯肉の正常な状態を知らないと、異常に気付くのが遅れてしまいます。

歯肉は歯周組織の一番外側の粘膜で、歯肉の大部分で動かない部分は付着歯肉、歯の際の少し動く部分は遊離歯肉、歯と歯の間の三角形のところは乳頭歯肉といいます。

色は淡いピンク色。健康な歯肉には、まるでみかんの皮のようなプツプツとしたスティップリングと呼ばれる小さなへこみが点在しています。そして、歯と歯肉の間には浅いすきま=歯肉溝(歯周ポケット)があります。


歯肉の病気はどんなものがあるの?

外からの刺激や細菌に強いイメージの歯肉ですが、やはり病気になることがあります。

なんと言ってもまずは、歯科での三大疾患の一つであり、虫歯、顎関節症と並んで有名な歯周病(歯槽膿漏)です。

もっとも誰でもがかかってしまう可能性の高い歯肉の病気のひとつです。

これについては次回に詳しくお話します。
歯肉の他の病気で代表的なものを挙げてみましょう。

1. 歯肉が腫れる病気

根尖性膿瘍(こんせんせいのうよう)、歯根嚢胞(しこんのうほう)などの歯根由来の炎症

虫歯や打撲したことによって歯の神経が死んでしまったり、根の治療が途中のままで放置してしまったり、以前に神経を取っている歯が何らかの原因で感染を起した場合に、歯の根の先端(根尖)に膿がたまってしまいます。

歯肉にニキビの様な腫れができたり、ひどくなると痛んだり大きく腫れてくることがあります。

水疱性・ウイルス性のもの/h4>

・単純疱疹
単純ヘルペスウイルス感染によるもので、口唇の周りの皮膚・口唇粘膜・歯肉・上あごの粘膜などに小さな水疱が多くできます。

薬剤によるもの

・フェニトイン歯肉増殖症
抗てんかん薬のフェニトインを長く服用すると、服用者の約半数に歯肉増殖が見られます。最初は主に前歯の部分の歯肉(特に歯間乳頭:歯と歯の間の三角形の部分)が赤く腫れあがり、次第に増殖して来ます。

悪性腫瘍

・歯肉癌
口腔癌の中では舌癌に次いで多くみられます。初期には歯周病との見分けが難しいことがあります。出血しやすく、暗赤色でカリフラワー状をしたものから、ただ単に膨隆しており表面的には正常歯肉の色をしているものなどさまざまです。50歳以降の男性に多くみられます。

悪性腫瘍には癌以外に、HIV感染者に見られるkaoposi肉腫などもあります。紫色や茶色でわずかに隆起しています。

歯肉炎

歯肉炎は、歯肉にのみ限局して炎症がある状態です。

2. 歯肉が平らのまま出来る病気

口内炎

・アフタ性口内炎
直径2~10mmの境界線のはっきりとした円形の潰瘍で強い接触痛があります。口腔粘膜に再発を繰り返すことが多いですが通常1~2週間で治癒します。

・壊死性潰瘍性口内炎
体調を崩し抵抗力が弱った時などに細菌感染により、歯肉にできる潰瘍で、強い自発痛や接触痛があり、出血することもあります。強い口臭を伴います。

色素沈着症

・メラニン性色素沈着
メラニン色素によるものでは内因性(体の中からが原因)の場合が最も多い。色は褐色・黒褐色で前歯の表側の歯肉に多くみられます。色素斑自体に病的ということはほとんどありません。

・重金属沈着
外来性の場合、色は褐青色・灰黒色で歯と歯肉の境い目に帯状に見られる。冠などをかぶせた後に土台や冠に使用した金属(水銀・鉛・蒼鉛が代表的)の影響で歯肉が黒ずんでしまうことがあります。金属の使用を止めると次第に色は抜けていきます。

・扁平苔癬
よくできるのは頬の粘膜で、左右両方に生じることが多い。
細い白いレース模様状や線状であるのが特徴的ですが、びらんを伴う場合には食事のときに接触痛や刺激痛を感じることがあります。40歳以上の女性に多い様です。

角化異常

・白板症
白い色をしており、板状やまだら模様に見られ、歯肉や頬の粘膜・舌にも多く見られます。痛みはありません。
40歳以上の人に多く見られ、一部癌化する場合もあり前癌病変のひとつとされています。

 歯肉は口を覗けば当たり前にあるものですが、このようにいろんな働きがあり身体についてのさまざまな情報が詰まっています。

一般に歯科では歯の治療が主と思われていますが、歯肉やその他の粘膜組織の治療もおこなっています。

違和感を感じたり、気になる症状があるときはもちろん、自覚症状がなくても見た目の変化に気づいた時は早めの受診でお口の健康を保ちましょう。