【第十一回】なぜ仮歯を入れないといけないの?

皆さん、むし歯治療の途中で、仮の詰め物とか仮歯(かりば)とか入れてもらったことありませんか?

「仮の物じゃなくて、すぐに本物を入れてよ!」と思われるのはごもっとも。

でも、残念ながら歯科で即日に詰めたり被せたりできる素材は、レジンと呼ばれるプラスチックの一種で、強度が弱く咬む力が強い歯には向いていません。前歯や虫歯が小さな治療向きの治療なのです。強度が必要で長期に破損しにくい物は技工技術で作製するので日数がかかるのです。

「確かに、穴が開いている部分に仮の詰め物は入れてもらわないと食べかすが詰まるから仕方がないけど、かぶせ物の仮歯は別に入れなくったっていいんじゃない?」

と思っている人もいませんか?

いえ、いえ、かぶせ物の仮歯も非常に大切な役目があるので、今回はそのご説明をしますね。

 

★ちなみに、この仮詰めも仮歯もレジンと言うプラスチックの一種です。

さっきお話しした「強度を必要としない治療用のレジン」とは違って、仮歯のレジンは、「歯にくっつきにくく除去しやすい」「お口の中で即席に作りやすい」「短期間しか持ちにくい」性質のものです。

 

1.見た目をよくする

歯の治療中に見た目を保つため、仮歯は重要です。特に前歯の治療中にかぶせる歯がない状態だと、とても目立ってしまいます。治療期間中でも見た目を気にせず日常生活を送るためにも仮歯は大切な役割を果たします。

2.歯の移動を防ぐ

かぶせ物が入っていないということは歯と歯の間に隙間があるということです。

隙間があると、歯は隙間がある側へ徐々に動いたり傾いたりすることが多いことをご存じですか?

これを歯の移動といいます。

歯が移動するのは、治療中の歯そのものだけではなく、治療中の歯と咬み合っている反対側の歯も上下に移動してしまうことがあります。

せっかく出来上がってきた最終的なかぶせ物が入る隙間が不足してうまく入らず、また作り直しが必要になります。狭くなった隙間を広げるために、治療中の歯または咬み合っている反対側の歯を削り足したり、型取りもしなおさないといけません。大切な歯が必要以上にさらに小さくなってしまうだけでなく、患者さまにとって来院回数が増えてしまいます。最終的なかぶせ物が出来上がるまでの間は、治療中の歯や周辺の歯が動いてしまわないように仮歯をいれておくことはとてもとても重要なのです。

 

3.歯を悪い刺激から守る

歯を削った表面は象牙質という歯質で、歯の中の神経(歯(し)髄(ずい))に近いため、患者様自身の呼吸・飲食時の熱刺激や歯ブラシ時の摩擦刺激などで痛みが出てしまいます。

また、この象牙質は細菌に弱い歯質なので、直接唾液に触れることで細菌感染する危険もあります。つまり、せっかくむし歯を削ったのに、細菌感染によってまたむし歯ができてしまったり、象牙質の知覚過敏症が発生して炎症を起こした歯髄を除去しないといけなくなるリスクが高まります。歯髄を除去すると、歯の寿命は短くなってしまいます。そこで仮歯を被せることで、歯を細菌感染やさまざまな刺激から守ることがとても重要なのです。

 

4.食事や発音のサポート

歯を削ったのに仮歯を入れないと、歯が痛かったり、歯と歯が咬み合わないために普段より噛みにくく、食事に気を使わなくてはなりません。部位によっては息が漏れるような発音になって、話辛くなってしまう方もいます。さらには、仮歯を入れなかったばかりに、反対側の歯ばかり使い過ぎて、顎関節症を発症してしまうこともあります。仮歯を装着することで普段とほぼ同様な生活を送れることができるので日々のストレスを最低限に抑えることができます。

 

5.最終的なかぶせ物を入れる前のお試し

最終的なかぶせ物にする前に、仮歯で本当にその咬み合わせや形でよいのか、歯ぐきに悪い影響を与えていないか、歯磨きがしにくくないかなどを確認することで、最終的な被せ物作製の参考にします。

 

仮歯は治療完了までのご自分の歯

仮歯は一時的なものでありながら、治療完了までの見た目や機能性、そして最終的なかぶせ物を長く快適に使っていただける結果を左右する大切な役割があることをご理解いただけたでしょうか?

仮歯なので、治療途中ではずれることもあります。

面倒だからと、最終のかぶせ物を入れる日までそのまま放置すると、仮歯の重要な役目を果たせません。

せっかく入れた仮歯が最後まで役目をまっとうするまでは、ご自分の歯と思って大切に使い続けてくださいね。