第六回 マイクロCTで死角なし!?

治療を何度繰り返してもなかなか良くならない。痛むのにどこも悪くないと言われる。自覚症状がないのに抜歯しなければならないと宣告された。

そういった治療に対して疑問を感じたり納得できなかったことはありませんか?時には、後なってやっぱり誤診だったなんてことを経験した方もいるかもしれません。

どうして口や歯のプロである歯科医師が病気を見落としたり、間違えたりするのでしょうか?

歯や歯ぐきの中を見るには?

お口の中は、狭く歯がぴったりくっついて並んで生えています。どんなに明るい光を入れても見えない部分がたくさんあります。

しかも病気のほとんどは歯や歯ぐきの中、あるいは歯ぐきの下に隠れている骨の中に隠れているのです。透視力でもない限り普通の肉眼では確認できません。

そこで歯科医師は患者さんが訴える症状以外に、客観的に判断するために自然界の透視力、つまりX線を利用して見えないところを見て診断しようというのが、X線(レントゲン)診断なのです。

しかし残念ながら、従来の単純X線に写ったさまざまな像が正しく症状の原因を解明してくれるとは限らないのです。だからレントゲンを撮ったけれど、やっぱりよくわからないということは珍しくないのです。

当院では、昨年秋に新しくマイクロCTを導入しました。これによって今までよりも遥かに正確でより的確な診断が可能となりました。

そこで、皆さまにマイクロCTが今までのレントゲンよりどのように優れているのかをご理解いただくために、出来るだけ簡単にわかりやすくご説明したいと思います。

マイクロCTで死角なし?普通のCTとの違いとは

歯科医院をめぐる不名誉な噂とは?

雑誌やTVあるいはご自身の体験で、体や頭部を輪切りにしたレントゲン写真をご覧になったことがあるのではないでしょうか?

CTとはコンピュータを駆使したデータ処理と画像の再構成で断面写真を得ることができる装置です。マイクロCTとは歯科や耳鼻科など非常に小さく複雑な範囲に特化したCT装置で、コーンビームCT(被写体の周りをぐるっと回りながらの撮影方法)とも呼ばれています。

一般的なレントゲン写真は三次元的な人体の構造を一方向から二次元的な平面上に撮影するため、短時間でお口全体を撮影することが可能ですが、全ての像が重なるため、正確な診断が難しい場合があります。(図1)その点CTは三次元的な画像を再現できるので、どんな角度からでもスライス(輪切り状)した全ての平面を一面ずつ見ることが可能です。(図2)

また、普通の医科用CTとの大きな違いは、撮影方法が横たわるのに対し、マイクロCTでは立位または座位での撮影になることです。

そして撮影時間もかなり短く約10秒程度で済み、被曝線量が医科用よりも圧倒的に低いことも大きな違いとなります。

マイクロCTの特徴

【長所】

  • 微小で複雑な口腔や歯を立体的で高精度に分析や診断ができる
  • 専用ソフトを使うことで短時間に画像を構築できる
  • 撮影時間が短い(約10秒)
  • 被曝線量が少ない
  • 金属アーチファクト(画像の乱れ)が少ない

【短所】

  • 今のところ健康保険適用外である
  • 一度に広範囲の撮影が難しいため、必要な場合は数回に分けての撮影となる
2次元像(一般的なレントゲン写真) 3次元像(CT)

・そのものの形や配置など全体を把握することが
できる
・奥行きがあるものでも平面として再現されるため、
複数の面が重なって見える

・被写体の大きさ、それぞれの距離を把握することが
できる
・様々な角度からスライスした全ての平面を一面ずつ
見ることができる

放射線被曝が心配ですか?

ところで、多くの人はレントゲンの被曝線量について心配されているのではないでしょうか?実は私たちが日常生活において、様々な自然放射線や宇宙線、地球上に存在する放射性物質、また体内で自然発生している放射線などに被曝していることをご存知ですか?

まず放射線被曝の量をあらわす単位をシーベルトと言います。

たとえば、私たちは日常生活の中で年間2.1ミリシーベルトの自然放射線を浴びているのですが、飛行機に乗って東京とニューヨークを一回往復するだけで0.19ミリシーベルトの宇宙線を浴びてしまいます。

また、健康診断で胸部や胃部のレントゲン検査を受ければ一回で0.05~0.6ミリシーベルトの放射線を浴びているのです。

歯科用レントゲンにおいては、今までのアナログレントゲン(フイルムタイプ)では0.04ミリシーベルトでしたが、デジタルレントゲンで撮影すれば0.005ミリシーベルトとなり実に約8分の1となります。

マイクロCTでの被曝線量は0.02~0.04といわれており、医科用CT(胸部撮影時6.9ミリシーベルト)と比べて圧倒的に低いものとなります。(図3参照)

もちろん当院では、レントゲン撮影時には必ず被爆防護のエプロンの着用をし、必要最低限の被曝線量、被曝領域での撮影を行っておりますので、妊娠中の方や小さなお子様にも安心です。

CTで実際には何がわかるの?

先にもお話しましたように、一般のレントゲン写真では二次元的な平面の状態しか確認できませんでしたが、マイクロCTでは三次元的な状態を把握することができるので、より正確な情報を得ることができ、診断する上でも格段に精度があがります。

このことは、インプラント治療をはじめ、歯列矯正治療や根管治療(歯の根の治療)、親知らずや埋伏している歯の抜歯など、幅広い歯科治療に有効です。

また、患者さん自身にもその状態を画像でわかりやすくお伝えすることが出来ます。そして正確な診査・診断が出来るということは

  • 1. 治療自体の精度が上がる
  • 2. 治療時間の短縮が図れる
  • 3. 治療の安全性が高まる
  • 4. 正しく適切な治療法を選択できる(不必要で無駄な治療を受けずに済む)

という患者さんにとって大きなメリットとなります。
歯科用CTで診断することにより、多くの治療に以下のようなメリットが生じます。

インプラント治療 インプラントを埋入する部位の骨の状態(質や厚み、高さ、形態など)の診断に有用である。
インプラント手術の正確なシミュレーションが可能となり、手術可能かどうか確認することができる。
埋入後の状態の確認ができ予後の安定につながる。
CTが自院にあることで、他院に撮影に行く手間が省ける。
親知らずやその他の埋伏歯の抜歯 神経や副鼻腔(鼻の奥の空洞)との距離や、周囲の病巣の有無や大きさなども診断できるので、より安全な治療を受けることができる。
余分な切開や骨の切削などを避けることができ、抜歯後のリスクを最小限に回避することが可能になる。
根管治療 歯根の膿の位置や広がり、歯根の形態や歯が破折していないかどうか、治療後の治癒の状態など正確に知ることができるので、本当に必要な治療法自体を正しく選択できる。
歯列矯正治療 矯正前の検査で顎骨の状態が正確にわかるので、歯の移動の限界が予測でき、矯正後の状態も予想しやすくなる。
治療計画の立案に役立ち治療期間の短縮につながる。
歯周治療 骨の吸収や破壊程度などを立体的に把握することで治療法を選択できる。
状態にあった治療やブラッシング指導を受けることで、歯の保存につながる。

いかがでしたか?特別な病気にしか関係ないと思っていたCT装置のイメージが身近な診断装置に感じられたのではないですか?

レントゲンは医療にとっては欠かすことのできない診断装置の一つです。

とくに、歯や骨などの硬い組織の病気を診断するには不可欠です。その中でもマイクロCTという高機能な装置を導入することで、当院では精度の高い治療をめざします。

残念ながら今のところ保険適用外となっておりますが、当院では実勢よりできるだけ低価格にさせていただいて、多くの方々に正確な診断と的確な治療を受けていただけるようにしております。