「歯の根の治療に通っているのに、なかなか痛みが引かない」
「治療が終わったはずなのに、数年後にまた歯茎が腫れてきた」
「抜歯するしかないと言われたが、本当に残す方法はないのか?」
もしあなたが今、このようなお悩みを抱えているとしたら、それは決してあなただけではありません。日本の歯科治療において、最もトラブルが多く、再治療が繰り返されているのが「根管治療(歯の根の治療・歯内療法)」です。
なぜ、根管治療はこれほどまでに難しく、治りにくいのでしょうか?
その最大の原因は、「見えない部分を、見えないまま治療している」という従来の方法の限界にあります。
本コラムでは、最新の「歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)」を用いたマイクロエンド治療が、従来の保険診療レベルの治療と何が違うのか、具体的なデータや症例画像を交えて詳しく解説します。あなたの大切な歯を守るために、知っておくべき「歯を残すための真実」をお伝えします。
1. そもそも「根管治療」とは何か?
まず、根管治療の基本について理解しておきましょう。
むし歯が進行し、歯の内部にある神経(歯髄)まで細菌が到達すると、激しい痛みや歯茎の腫れを引き起こします。さらに進行すると、神経が壊死し、歯の根の先に膿の袋(根尖病巣)を作ります。また、歯を支えている骨が溶かされてしまうこともあります。
こうなった場合、細菌に汚染された神経や血管を取り除き、歯の内部(根管)を徹底的に洗浄・消毒する必要があります。そして、空洞になった根管内に再び細菌が繁殖しないよう、薬を詰めて密閉する。これが根管治療です。
根管治療は「ミクロの掃除」
言葉で説明するとシンプルですが、実際の治療は極めて困難です。
歯の根の中にある管(根管)は、直径が1mm以下と非常に細く、しかも真っ直ぐではありません。湾曲していたり、枝分かれしていたり、網の目のように複雑な形態をしています。
この複雑なトンネルの中から、目に見えない細菌を完全に除去しなければならないのです。もし細菌の取り残しがあれば、治療後すぐに、あるいは数年後に再び炎症が起き、再治療が必要になります。
2. なぜ日本の保険治療では「治らない」ことが多いのか?
日本における根管治療の成功率は、欧米の専門医に比べて低いというデータが過去に示されたことがあります。これには、「治療環境」と「技術的な限界」の2つの大きな理由があります。
理由①:「見えない」中での手探り治療
従来の一般的な保険診療では、肉眼または低倍率の拡大鏡を使って治療を行います。しかし、先述の通り根管の入り口は針の穴ほど小さく、根の中は暗闇です。
肉眼では、根の奥深くまで見ることは不可能です。そのため、多くの歯科医師は「手指の感覚(手応え)」と「レントゲンの影」だけを頼りに治療を行っています。
いわば、「真っ暗な部屋の中で、手探りで床のゴミを掃除している」ようなものです。これでは汚染物質を取り残してしまうのも無理はありません。特に、複雑な形をした根管や極細の根管は見落とされやすく、そこが細菌の温床となって再発を招きます。
理由②:制度上の限界
日本の保険制度における根管治療の診療報酬は、欧米先進国に比べて極端に低く設定されています(数十分の1程度の費用)。そのため、限られた時間と費用の中で治療を行わざるを得ないのが現状です。
根管治療を成功させるには、ラバーダム防湿(唾液が入らないようにするゴムのマスク)や、使い捨ての器具、そして十分な時間をかけることが必須ですが、保険診療の枠組みではこれらを徹底することが経営的に困難な側面があります。結果として、「早い・安い・(質が)不十分」な治療が繰り返され、最終的に抜歯に至るケースが後を絶ちません。
3. 「暗闇」に光を当てるマイクロスコープの威力
こうした従来法の限界を打ち破るのが、「歯科用マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」です。
マイクロスコープは、患部を最大20倍〜30倍程度まで拡大して見ることができます。さらに、強力な光を根管の奥深くまで照射することで、これまで「見えなかった」部分を「鮮明に見える」状態に変えることができます。

アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口のドイツ製マイクロスコープ
―圧倒的な「視覚情報」の差―
肉眼での治療とマイクロスコープでの治療の差は、例えるなら「月明かりの下で本を読む」のと、「快晴の太陽の下で虫眼鏡を使って本を読む」ほどの違いがあります。
・汚染物質の除去: 感染した神経の残りカスや、古い詰め物がこびりついている様子がはっきりと見えます。見えるからこそ、確実に取り除くことができます。
・ヒビの発見: 肉眼では発見できない微細な歯の亀裂(マイクロクラック)を発見できます。これにより、「なぜ痛みが取れないのか」の原因を特定できます。
・歯質の保存: 悪い部分だけをピンポイントで削ることができるため、健康な歯を削りすぎることがありません。歯を薄くしないことは、将来の破折(歯が割れること)を防ぐ上で極めて重要です。
4. データで見る有効性:見逃されやすい「MB2」の発見
マイクロスコープの有効性を裏付ける具体的なデータをご紹介します。
特に大臼歯(奥歯)には、通常3本の神経の管があると言われていますが、実は高い頻度で「4本目の神経(MB2:近心頬側第二根管)」が存在します。
このMB2は非常に細く、入り口が隠れていることが多いため、肉眼での治療では約半数以上が見落とされてしまいます。この「見逃されたMB2」に残った細菌が原因で、治療しても痛みが引かない、膿が止まらないというケースが非常に多いのです。
論文データによる比較
1999年に発表された論文(※1)によると、マイクロスコープを使用することで、このMB2の発見能力が劇的に向上することが示されています。
以下のデータは、同論文における上顎第一大臼歯(U1M)の根管発見数に関する統計の一部を引用したものです。
| 根管数 | 歯の本数(割合) | 備考 |
| 3根管 | 3本 (0.3%) | マイクロスコープ使用時はごく少数 |
| 4根管 | 802本 (73.2%) | 約7割以上の歯に第4根管(MB2)を確認 |
(※1参考文献:Vol.25, No.6, June 1999 Journal of Endodontics などを参照したデータに基づく)
このデータが示唆しているのは、「マイクロスコープを使えば、約7割以上の確率で4本目の神経を見つけ処置できるが、肉眼ではそれを見逃してしまう可能性が高い」ということです。
実際、肉眼治療でのMB2発見率は50%を下回るとする報告も多くあります。つまり、マイクロスコープを使わない根管治療を受けた場合、2回に1回以上の確率で、感染源を見落としたまま蓋をされてしまうリスクがあるのです。これでは、いくら薬を交換しても治らないのは当然です。
「見つけることができる」ということは「清掃できる」ということであり、それが直結して「治る確率(成功率)」を向上させます。
5. マイクロスコープで救える歯:実際の治療例
当院でも、他院で「抜歯しかない」と言われたり、「原因不明」とされた歯を、マイクロスコープを用いた精密根管治療で数多く救ってきました。具体的なケースをご紹介します。
ケース①:巨大な膿の袋があり、抜歯宣告された歯
【治療前】
レントゲンを見ると、歯の根の先端に大きな黒い影が確認できました。これは骨が溶けて膿が溜まっている状態(根尖性歯周炎)です。他院では「病巣が大きすぎるため、抜歯してインプラントにするしかない」と診断されていました。

【マイクロスコープ治療】
顕微鏡下で根の中を観察すると、過去の治療で取りきれていなかった古い詰め物と、その奥で未治療で腐敗した神経が見つかりました。これらを徹底的に除去し、洗浄・消毒を繰り返しました。
【治療後】
感染源がなくなったことで、人間の体が本来持っている治癒能力が働き始めました。数ヶ月後のレントゲンでは、黒い影が消え、溶けていた骨が再生していることが確認できました。ご自身の歯を残すことができたのです。

ケース②:治療しているのに痛みが消えない「原因不明」の歯
【治療前】
他院で何ヶ月も根の治療を受けているが、噛んだ時の痛みや違和感が消えないという患者様です。「もう神経は取ったはずなのに」と不安を抱えて来院されました。
【マイクロスコープ治療】
CT撮影とマイクロスコープによる観察を行ったところ、先ほど解説した「見逃された神経(MB2)」の入り口を発見しました。肉眼では全く見えない、髪の毛ほどの細さの穴が隠れていました。

※ここに2つ根の管がありますが、経験と訓練を積んだ歯科医師でないと見落としたり、見間違えたりすることが多いのです。
【治療後】
この隠れていた神経の中に残っていた細菌感染を取り除いた直後から、嘘のように痛みが消失しました。原因は「神経の取り残し」だったのです。見えないレベルの汚れがいかに致命的かを示す事例です。
ケース③:根の中に「折れた器具」が残っている歯
【治療前】
過去の治療で使用した金属製のヤスリ(ファイル)が、治療中に折れて根の中に食い込んでしまっているケースです。この「破折器具」が邪魔をして、その先の掃除ができないため、感染が治りません。肉眼ではその存在すら確認できないことが多く、除去は極めて困難(最難関)とされています。

【マイクロスコープ治療】
マイクロスコープで高倍率に拡大し、破折した器具の頭を確認。特殊な超音波器具を用いて、周りの歯を削りすぎないように慎重に振動を与え、器具を除去することに成功しました。
【治療後】
障害物がなくなったことで、根の先端まで器具が届くようになり、適切な薬を詰めることができました。これにより、長年続いていた不快症状が改善しました。

6. 「歯の寿命」を左右する最も重要な選択
根管治療は、家づくりに例えるなら「基礎工事」です。
どんなに高価で美しいセラミックの被せ物(家)を建てたとしても、その下の基礎(根管)が腐っていては、やがて家ごと崩れ落ちてしまいます。
自由診療(自費診療)という選択肢
マイクロスコープを用いた精密根管治療(マイクロエンド)は、その高度な技術、高額な設備、そして一人ひとりの患者様に十分な時間(通常60分〜90分)を確保する必要があるため、多くの歯科医院では「自由診療(保険外診療)」として提供されています。
費用の面だけで見れば、保険診療よりも高額になります。しかし、ここで「安さ」を選んで不完全な治療を受け、数年後に再発して抜歯になり、最終的にインプラントや入れ歯になるコストと精神的な負担を考えてみてください。
一生使い続けたいご自身の歯を守るための投資として考えれば、精密根管治療は決して高いものではないはずです。
歯を抜く前に、セカンドオピニオンを
「もう抜くしかない」と言われても、マイクロスコープで見れば「まだ残せる可能性」が見つかるかもしれません。
また、現在治療中で「なかなか治らない」「痛みが続く」という方は、見えない原因が隠れている可能性があります。
アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口では、マイクロスコープと歯科用CTを完備し、根管治療の経験豊富な歯科医師が、妥協のない治療を提供しています。
「見えない・わからない・治らない」治療から、「見て・わかって・治す」治療へ。
あなたの大切な歯を諦める前に、ぜひ一度アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口にご相談ください。マイクロスコープという「目」が、あなたの歯の運命を変えるかもしれません。

