歯科衛生士コラム『お口の中の気になる話』

第20回 開咬(オープンバイト)の危険性

2025.10.01

【歯科衛生士が解説】そのお悩み、もしかして開咬?放置は危険!オープンバイトのリスクとは

皆さんは、毎日のお食事や会話を、特に意識することなく楽しんでいらっしゃいますか?
「当たり前じゃない?」と思われるかもしれませんが、実はその「当たり前」を少し難しくしてしまう歯並びがあるんです。

日々のクリーニングで患者さんとお話ししていると、「麺類がうまく噛みきれないんです」「サ行が話しにくい気がして」といったお悩みを伺うことがあります。もしかしたら、あなたも同じような経験をされたことはありませんか?

実はそのお悩み、「開咬(かいこう)」、別名「オープンバイト」という歯並びが原因かもしれません。(ちなみにお口を開ける行為の「開口」とは意味も漢字も異なるのでご注意してください。)

「オープンバイトって何?」「前歯に少し隙間があるだけでしょう?」
そう思われる方も多いのですが、実はこの開咬、見た目の問題だけでなく、お口や全身の健康にまで影響を及ぼす、ちょっと注意が必要な状態なんです。

そこで今回は、皆さんの大切な歯と健康を守るため、歯科衛生士の視点から「開咬(オープンバイト)を放置する危険性」について、じっくり、そして分かりやすくお話ししていきたいと思います。

そもそも「開咬(オープンバイト)」ってどんな状態?

まず、「開咬」がどんな歯並びなのか、一緒に確認してみましょう。
鏡の前で「イー」とお口をしてみて、奥歯をしっかり噛み合わせてみてください。その時、上の前歯と下の前歯の間に、隙間ができていませんか?

奥歯でしっかり噛んでいても、前歯が噛み合わずに上下に隙間が空いてしまっている状態。これが「開咬(オープンバイト)」です。

通常、正しい噛み合わせでは、上の前歯が下の前歯に23mmほど軽く覆いかぶさるようになっています。開咬の方は、この部分が接触せず、常に開いているため、前歯で食べ物を噛み切ることが難しいのです。

開咬になってしまう主な原因

開咬の原因は一つではありませんが、主に以下のようなことが考えられます。

子供の頃の癖(指しゃぶり、舌の癖など)

長期間の指しゃぶりや、食べ物を飲み込む時・話す時に舌で前歯を押す癖(舌突出癖:ぜつとっしゅつへき)があると、その力で歯が動いたり、顎の骨が変形しながら成長することもあり、開咬の原因になります。

口呼吸

鼻ではなく口で呼吸する癖があると、お口周りの筋肉のバランスが崩れ、舌の位置が下がりやすくなります。その結果、歯並びに影響を与えて開咬を誘発することがあります。

遺伝的な要因

骨格的に下顎が後ろに回転している、あるいは顎の形が面長であるなど、骨格的な特徴が原因で開咬になる場合もあります。

原因は様々ですが、どの原因であっても、放置してしまうことで様々なリスクが高まってしまいます。

放置は禁物!歯科衛生士が伝えたい開咬(オープンバイト)の5つの危険性

では、ここからが本題です。開咬をそのままにしておくと、具体的にどのような危険があるのでしょうか?一つひとつ見ていきましょう。

開咬の最も分かりやすい問題点は、「前歯が使えない」ということです。
私たちの歯には、それぞれ役割分担があります。前歯(切歯)は、食べ物を「噛み切る」ための歯。奥歯(臼歯)は、噛み切られた食べ物を「すり潰す」ための歯です。

想像してみてください。お蕎麦やラーメンを食べる時、私たちは無意識に前歯で麺を噛み切っていますよね。サンドイッチやお肉を食べる時も同じです。
しかし開咬の方は、この「噛み切る」という動作ができません。

「じゃあどうやって食べているの?」

舌を使ったり、無理やり奥歯の方へ食べ物を持っていって噛み切ろうとしたりします。
すると、どうなるでしょうか?

本来、すり潰す役目であるはずの奥歯が、「噛み切る」という余分な仕事まで背負うことになってしまうのです。
毎日毎食、奥歯だけに過剰な負担がかかり続けると

  • 奥歯がすり減りやすくなる(咬耗)
  • 歯が欠けたり、割れたりするリスクが高まる(歯牙破折)
  • 詰め物や被せ物が壊れやすくなる
  • 奥歯の根に負担がかかり、歯周病が悪化しやすくなる(グラグラしやすくなる)
  • 最終的に、奥歯の寿命を縮めてしまう

前歯が機能していない分、奥歯が「一生懸命頑張りすぎている」状態です。この状態が何十年も続けば、将来的に大切な奥歯を失う原因になりかねません。

奥歯にだけ負担がかかるということは、噛み合わせのバランスが非常に悪い状態だということです。このアンバランスな力は、歯だけでなく、顎の関節(顎関節)にも伝わります。

正常な噛み合わせでは、力が顎全体にバランス良く分散されます。しかし開咬の場合、奥歯周辺の特定の場所に力が集中し、顎関節にも不自然な力がかかり続けてしまいます。
その結果、

  • 口を開けるとカクカク、ジャリジャリと音が鳴る
  • 口が大きく開けられない
  • 顎やこめかみが痛む

といった「顎関節症」の症状を引き起こすことがあります。
顎の痛みは、ひどくなると頭痛や肩こり、めまいなど、全身の不調につながることもあるため、決して軽視できません。

歯の隙間は、息の通り道にもなります。
特に「サ行」「タ行」「ラ行」などは、舌と前歯の裏側をうまく使って発音する音です。
開咬で前歯に隙間があると、そこから息が漏れてしまい、これらの音がはっきりと発音しにくくなることがあります。

ご本人は無意識でも、相手からは「少し舌足らずな話し方だな」と思われたり、何度も聞き返されたりすることで、コミュニケーションに自信が持てなくなってしまう方もいらっしゃいます。

これは、私たち歯科衛生士が特に皆さんに知っておいていただきたい重要なポイントです。
開咬の方は、無意識のうちにお口がポカンと開いていることが多く、「口呼吸」になっているケースが非常に多いです。

私たちの唾液には、

  • お口の中の汚れを洗い流す「自浄作用」
  • 細菌の活動を抑える「抗菌作用」
  • 食後の酸性に傾いたお口の中を中性に戻す「緩衝作用」
  • 歯の修復を助ける「再石灰化作用」

といった、歯を守るためのスーパーパワーがたくさん備わっています。
しかし、お口が常に開いていると、口の中が乾燥しますよね。そして、唾液の働きが著しく低下してしまいます。実はこの「お口の乾燥(ドライマウス)」が、お口のトラブルの元凶なんです。

その結果、
虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすい環境になり、毎日きちんと歯磨きをしていても、虫歯や歯周病のリスクが格段に上がってしまうのです。
また、口の乾燥は口臭の原因にもなります。

前歯の間に隙間があること自体を気にされる方もいらっしゃいますし、先ほどお話しした口呼吸の影響で、無意識の時に口がポカンと開いてしまう「締まりのない表情」に見えてしまうことをコンプレックスに感じている方も少なくありません。

笑顔に自信が持てなかったり、人前で話すことに抵抗を感じたりと、精神的な負担につながることも、開咬がもたらすリスクの一つと言えるでしょう。

「もしかして私も?」と思ったら、まずはご相談を

ここまで開咬の危険性についてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか?
「ただの歯並びの問題」と軽く考えていた方も、全身の健康に関わる様々なリスクがあることをご理解いただけたかと思います。

「でも、もう大人だし、今さら治らないんじゃ
そんなことはありません!

開咬の治療法は、原因や年齢、お口の状態によって様々です。

歯列矯正

ワイヤー矯正やマウスピース矯正(インビザラインなど)で歯を動かし、正しい位置に導きます。最近では、目立ちにくい装置もたくさんあります。

MFT(口腔筋機能療法)

舌の正しい位置や飲み込み方をトレーニングし、根本的な原因である「癖」を改善していく治療法です。特に歯列矯正と並行して行うと、後戻りを防ぐ効果も期待できます。

外科的矯正治療

骨格的な問題が非常に大きい場合は、顎の骨の形を整える手術と歯列矯正を組み合わせることもあります。

 

大切なのは、「私の場合はどうなんだろう?」と一人で悩まずに、まずは専門家である私たちに相談していただくことです。

私たちアルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口では、患者さん一人ひとりのお悩みやご希望を丁寧にお伺いし、各分野のプロフェッショナル歯科医師が精密な検査を行った上で、その方に合った最適な治療計画をご提案させていただきます。
歯科医師だけでなく、私たち歯科衛生士も、治療中のケアやMFTの指導などを通して、皆さんの治療をしっかりとサポートさせていただきますので、どうぞご安心ください。

開咬は、放置しても自然に治ることはありません。むしろ、年齢を重ねるごとに奥歯への負担は蓄積され、リスクは高まっていきます。
もし、この記事を読んで少しでも思い当たることがあれば、それはあなたの体からの大切なサインかもしれません。

「麺が前歯でスッと噛み切れる」「はっきりとした発音で会話が弾む」「自信を持ってニッコリ笑える」
そんな当たり前のようで、かけがえのない毎日を取り戻すために、私たちと一緒に一歩を踏み出してみませんか?

どうぞお気軽に、アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口までご相談くださいね。お待ちしております。

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