こんにちは!アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口の歯科衛生士Mです。
日々の診療で多くの患者様のお口を拝見していると、ある共通点に気づくことがあります。それは、ご自身では全く気づいていない「歯ぎしり」や「食いしばり」のサインです。
「私、歯ぎしりはしていないと思います。家族に言われたこともないですし…」
定期検診で歯のすり減りや、特徴的なお口の状態を指摘した際、多くの患者様がこのように少し驚いた表情をされます。そのお気持ち、実は私、痛いほどよくわかるのです。なぜなら、お口のプロであるはずの私自身が、長年「自覚のない歯ぎしり」に悩まされ、そのせいで起こる原因不明の不調に苦しんでいた一人だからです。
朝、目覚めた瞬間に感じる、まるで一晩中ガムを噛み続けていたかのような顎の鈍い疲労感。日中もずっと続く、鉄板が入っているかのような肩こり。そして、何気なく飲んだ冷たい水がキーンと歯にしみる、あの不快な感覚…。
歯科衛生士として働きながらも、「疲れが溜まっているのかな」「肩こりは職業病だよね」と、それらの症状と歯ぎしりを結びつけて考えることはありませんでした。まさか自分が、眠っている間に自分の歯をギリギリと削っているなんて、夢にも思っていなかったのです。
今回のブログでは、そんな私の個人的な体験も包み隠さずお話ししながら、多くの方が自覚していない歯ぎしりや食いしばりについて、私たち歯科のプロがどこを見て「歯ぎしりをしている」と判断しているのか、そして、実際にマウスピース治療で長年の不快な症状が改善された患者様の嬉しい体験談を交え、その重要性をお伝えしたいと思います。
この記事が、かつての私と同じように、原因不明の不調に悩むあなたの助けになれば、これほど嬉しいことはありません。
あなたは大丈夫?
歯科衛生士が見る
「隠れ歯ぎしり」のサイン
~私の口にもあった、その証拠~
私たちは毎日、患者様のお口の中を隅々までチェックしています。その中で、歯ぎしりや食いしばりをしている可能性が高い方には、特徴的なサインが見られます。これから挙げるサインは、まさに私自身のお口の中にもくっきりと刻まれていた「証拠」でもあります。ご自身のお口の中を鏡でチェックしながら、いくつ当てはまるか確認してみてください。
1. 歯のすり減り(咬耗)
一番分かりやすいサインは、歯の先端がすり減って平らになっている状態です。食事だけでここまで歯がすり減ることは稀で、睡眠中に体重の何倍もの力がかかった歯ぎしりによって、少しずつ削られていきます。
【私の体験談】
私が自分の歯ぎしりを初めて疑ったきっかけが、この「歯のすり減り」でした。ある日、何気なく鏡で自分の歯を見ていて、ふと気づいたのです。「あれ…?私の下の前歯、なんだか平らじゃない?」と。歯科衛生士として毎日患者様の歯を見ているのに、自分の歯の変化には灯台下暗しでした。本来少し丸みを帯びているはずの先端が、まるでヤスリで削ったかのように一直線になっていたのです。犬歯も本来の尖った形を失い、丸みを帯びていました。その時、背筋がゾッとしたのを今でも覚えています。「毎晩、これだけの力で歯を削っていたのか…」と。
2. 頬の内側や舌にある圧痕(歯の痕)
頬の粘膜や舌の側面に、歯を押し付けたようなギザギザの痕はありませんか?これは、無意識に歯を食いしばる「クレンチング」という癖がある方によく見られるサインです。
【私の体験談】
朝起きると、頬の内側に白い線が一本、くっきりとついていることがよくありました。当時は「寝ている間に頬を噛んじゃったのかな」くらいにしか思っていませんでしたが、これも立派な食いしばりのサイン。日中、パソコン作業に集中している時や、緊張している時に、無意識にグッと奥歯を噛み締めている自分にハッと気づくことも。この日中の食いしばりの癖が、夜間の歯ぎしりにも繋がっていることを後から知りました。
3. 骨隆起(こつりゅうき)
下の歯の内側や、上顎の真ん中あたりに、硬いこぶのような骨の出っ張りがある場合があります。これは、歯ぎしりによる過剰な咬合力(噛む力)が顎の骨に伝わり、骨が「この力に耐えなければ!」と反応して盛り上がってくる現象です。
【私の体験談】
私にも、下の前歯の裏側、舌で触るとわかる小さな骨の隆起があります。これは長年にわたる歯ぎしりの力が、私の顎の骨に与えてきた負担の歴史そのものです。病的なものではありませんが、ご自身の歯ぎしりのパワーを物語る、一つの指標と言えるでしょう。
4. 歯の根元のくさび状の欠損
歯と歯茎の境目あたりが、えぐれるように削れている状態を「くさび状欠損」と呼びます。強すぎる歯磨きの圧だけでなく、歯ぎしりによる力が歯の根元に集中し、歯質が少しずつ破壊されて起こることも原因の一つです。
【私の体験談】
私の長年の悩みだった「知覚過敏」。その直接的な原因がこれでした。数本の歯の根元がわずかに削れ、象牙質が露出していたのです。歯ぎしりのギリギリという横方向の力が、最も構造的に弱い歯の首の部分に集中し、まるでくさびを打ち込まれたように歯質を剥がしてしまっていたのです。どれだけ優しく歯を磨いても、知覚過敏用の歯磨き粉を使っても改善しなかった理由が、ようやくここで繋がりました。
5. 詰め物・被せ物が頻繁に取れたり、欠けたりする
幸い私にはこの経験はありませんが、治療した歯の詰め物や被せ物が、他の人よりも頻繁に脱離したり、割れたりする方も注意が必要です。これも、歯科医師が想定する以上の強い力が、日常的にかかっているサインかもしれません。
これらのサインが複数見られる場合、たとえ自覚がなくても、夜間に相当な力で歯ぎしりや食いしばりをしている可能性が非常に高いと、私たちは判断します。
私の人生を変えた一枚のマウスピース。ナイトガード治療体験記
これらのサインから自分の「隠れ歯ぎしり」を確信した私は、同僚の歯科医師に相談し、自分用のマウスピース(ナイトガード)を作製することにしました。
型取りをして出来上がったマウスピースは、透明なプラスチック製のオーダーメイド品。初めて装着した夜は、「こんなものを口に入れて眠れるのだろうか…」と正直、半信半疑でした。少しの違和感はありましたが、眠れないほどではなく、気づけば朝を迎えていました。
そして、驚くべき変化はすぐに訪れました。
使い始めてわずか3日後の朝。いつものように目覚ましで起きた時、何かが違うことに気づきました。いつもまとわりついていた、あの顎の周りの重たい疲労感がないのです。さらに、首から肩にかけてのガチガチだった感覚も、心なしか和らいでいる…。
1週間が経つ頃には、さらに劇的な変化がありました。あれだけ私を悩ませていた、冷たい水が歯にしみる「知覚過敏」が、ほとんど気にならなくなっていたのです。恐る恐る冷たい水でうがいをしてみた時の、「…しみない!」という感動は、今でも忘れられません。毎朝、頭痛薬に手が伸びることもなくなりました。
そして、使用開始から約1ヶ月後。メンテナンスのためにマウスピースをチェックしてみて、私は二度目の衝撃を受けます。透明でツルツルだったはずのマウスピースの表面に、無数の引っ掻き傷と、一部が明らかにすり減っている箇所があったのです。
「これが…私が毎晩、無意識にやっていたことなんだ…」
客観的な証拠を目の当たりにし、改めて歯ぎしりの恐ろしさと、この薄いプラスチック一枚が、毎晩私の歯をこの破壊的な力から守ってくれていたのだという事実に、感謝の気持ちでいっぱいになりました。このマウスピースは、私の歯ぎしりを証明する「第三の証人」となってくれたのです。
私の経験が確信に変わった瞬間 ~患者様Aさんの笑顔~
この自身の経験があるからこそ、私は歯ぎしりのサインがある患者様を見ると、放っておけなくなります。ここで、私が担当したある患者様のお話を紹介させてください。
Aさん(40代・女性)は、数年前から「冷たいものがしみる」という症状に悩まされていました。虫歯の検査をしても原因は見つからず、色々な知覚過敏用の歯磨き粉を試しても、症状は一向に改善されなかったそうです。
お口の中を拝見した瞬間、私はピンときました。奥歯には顕著なすり減りが見られ、歯の根元も少し削れている…。まさに、かつての私のお口の中とそっくりなサインがそこにあったのです。
私「Aさん、もしかしたら夜寝ている間に、無意識に歯ぎしりをされているかもしれません。それが原因で歯に細かいヒビが入ったり、すり減ったりして、しみやすくなっている可能性があります。実は私も同じ症状に悩んでいたのですが、歯を守るためのマウスピース(ナイトガード)で劇的に改善したんです。一度、作ってみませんか?」
私の熱意が伝わったのか、最初は「歯ぎしりですか?考えたこともなかったです…」と半信半疑だったAさんですが、マウスピースを作製することに。
そして、マウスピースを使い始めてから約2週間後の検診でのことでした。
Aさん「びっくりです!あれだけ悩んでいたしみる症状が、ほとんど気にならなくなったんです!それに、朝起きた時の顎の周りの重たい感じもなくなって、なんだかスッキリ起きられるようになりました!」と、満面の笑みで報告してくださったのです。その笑顔を見た時、私は自分のことのように嬉しくなりました。「わかります!私もそうでした!」と、思わずAさんの手を取りたくなったほどです。私の辛かった経験が、専門的な知識と結びつき、目の前の患者様を笑顔にできた。歯科衛生士として、これ以上ない喜びを感じた瞬間でした。
プロが語る!マウスピース(ナイトガード)がもたらす4つの絶大な効果
歯科医院で作製するオーダーメイドのマウスピースは、市販のものとはフィット感や咬み合わせの安定感が全く違います。夜間睡眠時に装着することで、歯ぎしりや食いしばりによる様々な悪影響を軽減する効果があります。
1. 歯の保護
マウスピースが鎧のように歯を覆い、クッションの役割を果たします。歯と歯が直接こすれ合うのを防ぎ、歯のすり減りや、歯が欠けたり割れたりするのを物理的に防ぎます。私の歯がこれ以上削れるのを防いでくれている、まさに救世主です。
2. 顎関節や筋肉への負担軽減
歯ぎしりの力は、歯だけでなく顎の関節(顎関節)や、咬むための筋肉(咬筋)にも大きな負担をかけます。マウスピースを装着することで、この過剰な力を和らげ、顎関節症の予防や、顎周りの筋肉の緊張を緩和します。朝の顎のだるさからの解放感は、一日を快適にスタートさせてくれます。
3. 全身症状の緩和
顎周りの筋肉の緊張は、頭痛や肩こり、首のこりといった全身の不調に直結しています。マウスピースによって筋肉の緊張がほぐれることで、これらの不快な症状が改善されることがあります。私自身、頭痛薬や湿布を手放せるようになったことで、QOL(生活の質)が大きく向上しました。
4. 自身の歯ぎしりの自覚
傷だらけになった私のマウスピースのように、これはご自身が夜間に歯ぎしりをしているという客観的な証拠となり、セルフケアへの意識向上にも繋がります。「今日も一日お疲れ様」と自分を労わり、ストレスを溜めないようにしよう、というきっかけにもなります。
マウスピースがどうしても苦手な方に―ボトックス注射―
マウスピースを装着するとどうしても寝苦しい方がいます。また、マウスピースを装着しながらも激しい歯ぎしりが止まらない人もいらっしゃいます。
そういう方は、咬筋という咀嚼に使う最も力が強い筋肉の緊張が強いので、咬筋の筋力を低下させるボツリヌストキシン(ボトックス)の少量を筋肉注射することで、3~5カ月間筋力が低下して歯ぎしりを減らすことができます。
こちらは、歯科助手Yの体験記をぜひお読みください。
最後に ~あなたのSOS、見逃さないでください~
かつての私のように「自分は大丈夫」「これはただの疲れや肩こり」と思っている方ほど、一度、歯科医院で専門的なチェックを受けてみることを強くお勧めします。自覚のない歯ぎしりは、あなたの大切な歯を静かに削り、お口の健康、そして全身の健康を蝕んでいくサイレントキラーとも言える存在です。
もし、あなたが原因不明の歯のしみや痛み、顎のだるさ、長引く頭痛・肩こりに悩んでいるのであれば、それはもしかしたら、夜中の歯たちがあなたに発しているSOSのサインかもしれません。
私たち歯科衛生士は、患者様一人ひとりのお口の状態をしっかりと把握し、最適なケアをご提案するパートナーです。そして私は、一人の経験者として、あなたのその辛さに心から寄り添うことができます。
どんな些細なことでも構いません。ぜひお気軽にご相談ください。アルティス歯科・矯正・口腔外科クリニック西宮北口に受診されることで、あなたの長年の悩みを解決し、もっと快適な明日をもたらしてくれるかもしれません。

